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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)10024号 判決

原告 国

訴訟代理人 河津圭一 外三名

被告 株式会社 第一相互銀行

主文

一、被告は原告に対して、金三、六一二、五〇〇円及び内金三、五〇〇、〇〇〇円に対する昭和三四年一二月二九日より完済まで年六分の割合による金員の支払をせよ。

二、被告は原告に対して、

(イ)  昭和三六年二月四日金八二六、〇〇〇円

(ロ)  同年八月四日金八一五、五〇〇円

(ハ)  昭和三七年二月四日金八〇五、〇〇〇円

(ニ)  同年八月四日金七九四、五〇〇円

(ホ)  昭和三八年二月四日金七八四、〇〇〇円

(ヘ)  同年八月四日金七七三、五〇〇円

(ト)  昭和三九年二月四日七六三、〇〇〇円

(チ)  同年八月四日金七五二、五〇〇円

(リ)  昭和四〇年二月四日金七四二、〇〇〇円

(ヌ)  同年八月四日金七三一、五〇〇円

(ル)  昭和四一年二月四日金七二一、〇〇〇円

(ヲ)  同年八月四日金七一〇、五〇〇円

及び右各金員の内金七〇〇、〇〇〇円に対する各支払期日の翌日から支払ずみまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

三、原告の其の余の請求は、棄却する。

四、訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

原告指定代理人は、「被告は原告に対して金三、六一二、五〇〇円、内金七〇〇、〇〇〇円に対する昭和三三年八月五日から支払ずみまで年六分の割合による金員、内金七〇〇、〇〇〇円に対する昭和三四年二月五日から支払ずみまで年六分の割合による金員、内金七〇〇、〇〇〇円に対する昭和三四年八月五日から支払ずみまで年六分の割合による金員、内金七〇〇、〇〇〇円に対する昭和三五年二月五日から支払ずみまで年六分の割合による金員及び内金七〇〇、〇〇〇円に対する昭和三五年八月五日から支払ずみまで年六分の割合による金員の各支払をせよ。」ならびに主文第二、第四項と同趣旨の判決を求めた。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、との判決を求めた。

第二原告の主張

一  (国税滞納の事実)

(イ)  東京都荒川区日暮町二丁目二三七番地諸橋録平(滞納者)は昭和三二年九月二七日死亡したが、その生存中の所得について、所轄の荒川税務署長は、昭和三三年六月二日以下のとおり課税処分をした。(1) 昭和二九年分所得税決定処分、本税三一八、一六〇円、無申告加算税七七九、五〇〇円、(2) 昭和三〇年分所得税更正処分、本税六、二二三、九五〇円、過少申告加算税三一一、一五〇円、(3) 昭和三一年分所得税更正処分、本税八、九八九、二三〇円、過少申告加算税四四九、四五〇円

(ロ)  しかるところ滞納者の遺産は、諸橋キク、同成裕、同正義同日出夫、同継男、同総六、同君宣(以上滞納者の肩書住所に居住)及び井上光子(東京都北多摩郡国立町三の一〇)がこれを相続したが、各署長は右処分をした際改正前の国税徴収法第四条の一第八号(現行の同法第四三条第一項五号にあたる。)の事由があると認めたので、右税金の繰上徴収を行うこととし、その期限を昭和三三年六月二〇日午前九時三〇分と指定し、なお、同日東京国税局長に対し徴収事項の引継をした。

二  (滞納者の預金)

(イ)  滞納者は、その生存中の昭和三一年五月二八日被告銀行に対し東京都墨田区寺島町一丁目三番地鈴木貞治郎、同都台東区下車坂一〇五番地大高三郎の両架空人名義を用いて、それぞれ一〇、〇〇〇、〇〇〇円合計二〇、〇〇〇、〇〇〇円の通知預金をし同年一〇月四日その払戻に関して次の約定をした。

(1)  被告銀行は、契約成立と同時に原預金証書と引換えに元本の三割相当額及び証書記載の利息を支払う。

(2)  残元本は、二〇回に分割し、第一回支払期日を昭和三二年二月四日として爾後六カ月毎にこれを支払う。

(3)  利息は年三分、各支払期における元本残高につき六ケ月毎に計算し、右分割金とともに支払う。

(4)  被告銀行は、右(2) (3) の支払条件とおりの定期予金証書を預金者(滞納者)に交付する。

(ロ)  しかして、滞納者は、右約定に従い被告銀行からそれぞれ右残元本の七分の一(二、〇〇〇、〇〇〇円)もつて額面金額とする無記名定期預金証書七通(証書番号#B)一〇一五の一ないし七分割支払額その他の支払条件同一)の交付を受け、また次のとおりの支払を受けている。

(1)  昭和三一年一〇月四日、六、〇〇〇、〇〇〇円及び利息九五、二〇〇円

(2)  昭和三二年二月四日七〇〇、〇〇〇円及び利息二一〇、〇〇〇円

(3)  同年八月四日七〇〇、〇〇〇円及び利息一九九、五〇〇円

三  (預金債権の差押)

そこで東京国税局徴収部特別整理課大蔵事務官佐藤辰雄、同岩谷恒雄は、昭和三三年六月二〇日前記滞納税金及び滞納処分費(四五円)の徴収の為改正前の国税徴収法第一〇条及び第四条の二(現行の同法第四七条及び第二七条にあたる。)の規定により、右預金の払戻請求権を差し押え、同日被告銀行にこれを通知し、弁済期到来分の支払を求めたが、この間の昭和三三年二月四日元金七〇〇、〇〇〇円及び利息一九〇、〇二九円の支払が済まされていたため差押にかかる預金元本は金一一、九〇〇、〇〇〇円(無記名定期預金証書一通について金一、七〇〇、〇〇〇円)である。

しかるに、被告は、右預金債権者が滞納者であると確認し難いと称して右支払に応じないので、原告は被告に対し、本件口頭弁論終結当時弁済期の到来した昭和三三年八月四日から昭和三五年八月五日までの五口(いずれも一口七〇〇、〇〇〇円)の定期預金計三、五〇〇、〇〇〇円及び昭和三五年八月四日までの残元本の七分の一(すなわち定期預金証書七通中の一通分)に対する年三分の約定利息計一一二、五〇〇円合計三、六一二、五〇〇円及び右五口の七〇〇、〇〇〇円に対する弁済期の翌日から支払ずみまで商法所定の年六分の割合による損害金の支払を求めるとともに、将来の請求として、弁済期未到来の一二口(いずれも一口七〇〇、〇〇〇円)の各弁済期に右元本額及び各その弁済期までの前同様の割合の約定利息の合計額(主文第二項記載のとおり)並びにその中各七〇〇、〇〇〇円に対する各その弁済期の翌日より支払ずみまで商法所定年六分の割合の遅延損害金の支払を求める。

第三被告の主張

原告主張の事実中、原告主張の定期預金債権及びその利息債権は、諸橋録平の相続人等に属することは否認する。右は、鈴木貞治郎及び大高三郎にそれぞれ属するものであり、両名は実在の人物である。その余の原告主張事実は争わない。原告は請求の趣旨第一項記載の各七、〇〇、〇〇〇円に対する弁済期の翌日より年六分の割合による遅延損害金の請求をしているけれども、本件定期預金払戻債務は、いわゆる取立債務であるところ、被告は本訴請求を受けるまで、原告より請求を受けたことはないから本訴請求前には、いまだ履行遅滞の責を負うべき限りではないから、訴状送達前の損害金の請求は失当である。

第四証拠関係〈省略〉

理由

一  (当事者間に争のない事実)

原告が本訴請求の原因として主張する事実は、原告主張の定期預金払戻請求権及びこれに対する利息支払請求権が、諸橋録平に属していたこと及び被告が本訴請求前原告より本件債権の支払請求を受けたことを除き当事者間に争がない。

二  (定期預金払戻請求権等の帰属について)

本件定期預金払戻請求等の帰属について考察するに、成立に争のない甲第一、第二号証の各一、二、第三号証の一の一ないし八第三号証の二及び第四号証の四、証人河合昭五の証言により真正の成立を認めうる甲第四号証の一ないし三及び第五号証、同証人の証言並びに本件口頭弁論の全趣旨を綜合すると、原告主張の総額二〇、〇〇〇、〇〇〇円の通知預金(鈴木貞次郎名義で一〇、〇〇〇、〇〇〇円大高三郎名義で一〇、〇〇〇、〇〇〇円)の払戻に関する契約(その具体的内容は、原告の主張項の二に記載したとおりで当事者間に争がない。)は、甲第一号証の一、二の各契約書によつて行われ、払戻の方法として新らたに預金証書の発行をうけるにつき証書分割願(甲第二号証の一、二)が作成されているが、以上四通の書面にはいずれも預金者と被告銀行との合意で、権利行使の際の使用印鑑として〈米原〉という印影が顕出されていること、甲第一号証の一の条約書には「東京都墨田区寺島町一〇三鈴木貞次郎」と甲第一号証の二の契約書には「東京都台東区下車坂町一〇五大高三郎」とそれぞれ預金者の住所氏名が記載されているが、右各契約書に記された住所に、鈴木貞次郎または大高三郎と称する人物が居住していないこと、諸橋録平の仕事の手伝をしていた高橋信は、諸橋の生存中同人から「金を最初通知預金として預け入れたが、のち定期預金に振り替えた」と聞いたことがあること、また昭和三二年八月一五日諸橋録平から頼まれて同人より安西吉夫に対する無記名定期預金(被告銀行発行の証書番号〈B〉一〇一五-一ないし五)譲渡証(甲第四号証の三)を書いたことがあること、右譲渡証(甲第四号証の三)には諸橋録平の印鑑証明書の添附があり、かつ譲渡すべき無記名定期預金証書には〈米原〉という印鑑を使用してある旨明記されていること等が認められる。

以上の事実からすると、諸橋録平は、鈴木貞次郎、大高三郎各名義でそれぞれ一〇、〇〇〇、〇〇〇円の通知預金をしていたところ、昭和三一年一〇月四日これを解約し、即日三割に当る六、〇〇、〇〇〇円と当日までに発生した約定利息の支払を受け、残額一四、〇〇〇、〇〇〇円について各額面二、〇〇〇、〇〇〇円の七通(B一〇一五の一ないし七)の無記名定期預金証書に書き換え、これを受領したものと認めるのが相当である。したがつて右定期預金債権は諸橋録平であると認められる。したがつて、同人の死亡により、その相続人たる原告主張の者等においてこれを承継取得したものと解すべきである。そして、原告主張のように、右債権が収税官吏により差押えられ、原告主張の日に債務者たる被告に通知されたことは当事者間に争がないから、原告は国税徴収法により債権者に代位して前記無記名定期預金債権(弁済期未到来の分については期限到来しても被告において任意に履行しないであろうことが被告の主張自体により明かであるから、将来の給付を求める利益あるものと認める。)を適法に徴収しうるものといわなければならない。

三(弁済期が到来した分についての遅延損害金の請求について)

原告は請求の趣旨第一項記載の各元本債権について各支払期日の翌日から支払ずみまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるので考察するに、前記認定事実に甲第一、第二号証の各一、二ならびに当事者間に争のない事実を総合すると、右請求の趣旨第一項記載の各元本債権は、特別定期預金たる無記名定期預金債権であつて、無記名定期預金証書(被告銀行発行の証書番号〈B〉一〇一五の一ない七)記載の右各物権に、預金者諸橋録平が被告に対しあらかじめ届け出ておいた印章をもつて請求すべきことが定められ、無記名期期間金証書面には預金債権者の表示は勿論なく証券番号の記載のみ存することが認められる。かような特別定期預金債務は、債務者において、その預金債権者が何人であるかを知らないことを立前とし、預金証書と届出の印章を持参して請求するものに対して支払をする取扱であるから、その性質上取立債務であると解せられる。したがつて、本件定期預金債務についても、確定期限が存するにかかわらず債務者たる被告をして遅滞の責に任じさせるためには、商法第五一七条を準用し、預金債権者の権利を行使する原告において証書を呈示して支払の請求をしなければならないと解するを相当とする。

しかるに、本件全証拠によるも、原告が本件定期預金の各支払期日以後本訴提起までの間に、被告に対し証書を呈示して支払を求めた事跡を確認できないから、被告は本件訴状送達の翌日である昭和三四年一二月二九日から遅延の責に任ずるに過ぎないというべく、請求の趣旨第一項の請求は、原告主張の元本三、五〇〇、〇〇〇円及び右元本の七分の一(すなわち、定期預金証書七通中の一通分)に対する昭和三五年八月四日まど年三分の割合の利息一一二、五〇〇円並らびに右元本に対する訴状送達の翌日であること記録に徴し明かな主文第一項表示の日より完済まで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度においてのみ正当として認容すべきであるが、その余は失当として排斥を免れない。

四(むすび)

以上説示のとおりであるから、原告の本訴請求中、主文第一、第二項記載の部分は正当であるからこれを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条但書により主文のとおり判決する。

(裁判官 岡部行男 岡田辰男 柳沢千昭)

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